不動産リースバック活用時の会計処理はどのように行う? 注意点も解説

仕訳帳と電卓

リースバックは、保有資産の有効活用方法として近年注目を集めています。

個人が利用するイメージが強いかもしれませんが、さまざまな企業の資金調達手段に活用されています。

企業がリースバックの活用を検討する際、無視できないポイントが会計処理です。会計担当者の方は、リースバックにおけるお金の流れはどう区分されるかが気になるのではないでしょうか。

この記事では、不動産リースバック活用時の企業の会計処理について解説します。

また、会計処理の観点からリースバックのメリットや注意点も紹介します。これからリースバックの利用をお考えの企業ご担当者様は、ぜひご一読ください。

なお、リースバックについての基本知識等の詳細解説と大手リースバック会社の比較は以下の記事も合わせてご覧下さい。

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「あなぶきのリースバック」
記事執筆・監修
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穴吹興産 竹島 健

区分投資事業部 企画系(バックオフィス)課長

【資格】
・宅地建物取引主任者
1級ファイナンシャル・プランニング技能士

【経歴】営業マンとして新築マンションで12年、その後7年間リースバックを中心に中古マンション買取事業に従事。優秀営業マン賞等受賞。現在は経験を活かしてリースバック検討に役立つ情報を発信。

リースバックの取材に関する窓口はこちらstock_mansion@anabuki-kosan.co.jp

目次

企業の資金調達に活用できるリースバック

資金不足のイメージ

リースバックとは、正式名称を「セール・アンド・リースバック取引」と言います。

利用者が保有する不動産を「セール(売却)」し、同じ不動産の「リース契約(賃貸借契約)」を交わす仕組みです。

利用者は不動産の売却資金を得た上で、同じ物件の利用を継続できます。

「バック」とつくことから本来は買い戻しを前提とした仕組みですが、近年は買い戻さずに手放す活用方法も一般化しています。

リース料金の支払いは発生するものの、リースバックはまとまったお金の調達が可能です。

また、事業所を移転する必要がなく、同じ場所でビジネスを継続できます。

さらに、不動産の維持管理費も減らせます。こうした多くのメリットがあるため、資金調達方法としてリースバックを選ぶ企業は少なくありません。

▼企業のリースバック活用については、こちらの記事もあわせてご参考ください。

会計処理におけるリースバックのメリット

リースバックは、会計処理においてもメリットがあります。主なメリットは、以下4つです。

1.リース料金の経費計上
2.財務指標の改善
3.企業価値の向上
4.不動産リスクの回避

それぞれ具体的に説明します。

1.リース料金の経費計上

リースバック契約を結ぶと、リース料金の支払いが発生します。リース料金は企業の経費として計上できるため、利益を圧縮することによる法人税の削減が可能です。

不動産を所有している場合、不動産の債務は経費計上が難しくなっています。

同じ不動産に関する支出であっても、経費の処理方法は所有しているよりもリースバックのほうが有利と言えます。

2.財務指標の改善

所有していた不動産を売却すると、「貸借対照表(バランスシート)」から事業に用いる不動産の記載を消す「オフバランス化」を実行できます。

オフバランス化により総資産額を減らすと、貸借対照表がスリムになります。自己資本比率やROA(総資産利益率)、純資産回転率といった財務指標が改善され、経営効率の改善にも繋がるでしょう。

3.企業価値の向上

財務諸表からわかる財政指標の情報は、企業価値の向上にも効果を発揮します。

企業価値が高まれば「将来性がある企業」として信用され、金融機関からの融資審査が通りやすくなる傾向にあります。さらに、投資家などの​​ステークホルダーからの注目も集まるため、資金調達の選択肢が広がります。

4.不動産リスクの回避

不動産を所有していると、さまざまなリスクが発生します。

たとえば、不動産価値が下落すれば、会計処理上のマイナス要素となります。不動産の老朽化や破損により、想定外の修繕費用を計上しなければならないケースもあるでしょう。

また、災害による滅失リスクもゼロではありません。リースバックは前述のオフバランス化により、そもそも事業利用している不動産が貸借対照表に記載されません。

不動産リスクによる経営への悪影響を最小限に抑えられる点も、リースバックならではのメリットです。

リースバック取引における会計処理の流れ

電卓を操作する手

セール・アンド・リースバック取引は、文字通り「リース取引」を含みます。

リースバック取引とは、物件のリース期間と料金を定めて貸し出し、借主が貸主へリース料金を支払う仕組み全般です。

さらにリース取引は、「ファイナンス・リース取引」と「オペレーティング・リース取引」に区分されます。一般的なリース取引と同様、セール・アンド・リースバック取引の会計処理もどちらかへの区分が必要です。

ここでは、「ファイナンス・リース取引」と「オペレーティング・リース取引」の基礎知識と会計処理の流れを説明します。

なお、どちらの取引も、リースバックを利用する一般企業(借主側)の会計処理のみ解説します。

1.ファイナンス・リース取引とは?

ファイナンス・リース取引とは、不動産の売買と同様に会計処理がなされる取引形態を指します。

「リース会社が立て替えた購入代金をリース料金によって分割払いしている」といったイメージです。

「解約不能」と「フルペイアウト」の2つの条件を満たすリース取引は、ファインス・リース取引として扱われます。

解約不能とは、契約期間中に借主から中途解約の申し入れができない取引です。

​​解約不能に準ずる取引も含みます。一方フルペイアウトとは、「リース物件の購入金額+諸経費」をリース料金として回収する取引です。実質的に、借主がこれらの代金を負担する形になります。

さらに、次のどちらかの基準を満たしていないと、フルペイアウトには該当しません。

・現在価値基準:リース総額の現在価値が見積現金購入価額のおよそ90%以上
・経済的耐用年数基準:リース期間が経済的耐用年数のおよそ75%以上

また、ファイナンス・リース取引は、物件の所有権の扱いによって「所有権移転ファイナンス・リース取引」と「所有権移転外ファイナンス・リース取引」の2つに細分化されます。

1-1.所有権移転ファイナンス・リース取引

所有権移転ファイナンス・リース取引とは、リース契約の満了時に所有権が貸主から借主へと移行する取引です。

借主が「割安購入選択権」を持っている場合など、実質的に貸主から借主へ所有権の移転が認められる取引も該当します。

1-2.所有権移転外ファイナンス・リース取引

所有権移転外ファイナンス・リース取引とは、リース契約を満了しても所有権は借主へ移らない取引です。引き続き物件を使用したい場合、再契約または買取が必要です。

2.ファイナンス・リース取引に該当する場合の会計処理

ファイナンス・リース取引の会計処理は、「物件の売却時点」と「物件のリース開始時点」に分けて記帳します。

以下の条件に沿って、具体的な記載例を見てみましょう。

◇条件
・取得価格3,000万円の建物を売却
・間接控除法により、減価償却累計額1,800万円を償却
・売却により、当座預金へ900万円入金
・リース料金18万円、契約期間5年
・総リース料の割引現在価値は870万円

物件の売却時点

借方貸方
当座預金9,000,000円建物30,000,000円
減価償却累計額18,000,000円
固定資産売却損3,000,000円
長期前払費用3,000,000円固定資産売却損3,000,000円

このように、物件の売却損額は「長期前払費用」として処理します。

反対に、売却益が生じたら、「長期前受収益」として計上しましょう。その他の項目については、一般的な不動産売却における仕分けと変わりません。

物件のリース開始時点

借方貸方
リース資産8,700,000円リース債務8,700,000円
リース債務180,000円当座預金180,000円

多くの場合、リース料金は前払い制です。

ゆえに、リース開始時点を想定した上記の例では、支払利息は生じていません。2回目以降の会計処理の際は、支払利息も計上しましょう。

2.オペレーティング・リース取引とは?

会計処理におけるオペレーティング・リース取引とは、ファイナンス・リース取引に当てはまらない取引が対象です。

したがって、解約不能とフルペイアウトの条件を満たさないリースバック取引は、オペレーティング・リース取引として処理しましょう。

ファイナンス・リース取引に比べ、リース総額は安価になりやすい点が特徴です。また、オペレーティング・リース取引は、賃貸借取引として見なされます。

3.オペレーティング・リース取引に該当する場合の会計処理

わかりやすく、ファイナンス・リース取引とほぼ同じ条件のもと記載方法を示します。

リース料金のみ、ファイナンス・リース取引よりも安価な設定に変更しています。

◇条件
・取得価格3,000万円の建物を売却
・間接控除法により、減価償却累計額1,800万円を償却
・売却により、当座預金へ900万円入金
・リース料金15万円、契約期間5年

物件の売却時点

借方貸方
当座預金9,000,000円建物30,000,000円
減価償却累計額18,000,000円
固定資産売却損3,000,000円

ご覧のように、オペレーティング・リース取引における仕分けは通常の不動産売却と同様です。

物件のリース時点

借方貸方
リース料150,000円当座預金150,000円

オペレーティング・リース取引は、リース時の会計処理もいたってシンプルです。毎月、リース料金の支払いに合わせてこのように記載しましょう。

4.将来的に「新会計基準」へ移行する可能性有り

2023年現在、日本の会計基準に従うと、リースバック取引は「ファイナンス・リース取引」と「オペレーティング・リース取引」に大別されます。

しかし、将来的には新たな会計基準へと移行する可能性があります。日本の会計基準は、「IASB(国際会計基準審議会)」が策定した「IFRS16号」と相違する点があるためです。

実際、日本の会計基準を策定する「ASBJ(企業会計基準委員会)」は、2023年5月2日に新会計基準の草案を公表しました(※1)。

同草案では、リースバック取引の区分の撤廃が盛り込まれています。

そのため、今後はファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引に分ける必要がなくなるかもしれません。ASBJは適用時期を明かしていませんが、2026年ごろの適用が予測されています。

新会計基準ではオフバランス化ができない?

新会計基準では、リースバック取引のメリットである「オフバランス化」がしづらくなると解釈されています。

「リース総額300万円以下はオフバランス処理可能」といった例外はあるものの、「IFRS16号」に基準を合わせるとほとんどのリースバック取引でオフバランス処理ができなくなると考えられています。

※1 出典:企業会計基準委員会「企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」等の公表」

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リースバック取引の会計処理で注意すべきポイント

人差し指で注意喚起する女性

リースバック取引に限らず、会計処理を行う際は正確な記載が求められます。リースバック取引の会計処理を行う際は、以下4つの注意点に気をつけましょう。

1.会計処理区分をしっかり確認する
2.「転リース」を行う予定があるか
3.損益の繰り延べ処理の有無
4.新会計基準について情報収集する

順番に、重要なポイントを説明します。

1.会計処理区分をしっかり確認する

前述のとおり、「ファイナンス・リース取引」と「オペレーティング・リース取引」は会計処理の内容が違います。

まずは、自社のリースバック取引がどちらの区分に該当するのか、しっかり確認しましょう。

原則として、ファイナンス・リース取引に該当する契約は「中途解約できず、フルペイアウトの仕組み」による取引です。

条件に当てはまらないリースバック契約は、すべてオペレーティング・リース取引になります。契約内容を細かく確認し、正しい区分で会計処理しましょう。

2.「転リース」を行う予定があるか

「転リース」の予定の有無にも注意が必要です。転リースとは、リースバック契約で借りている物件を、子会社などの第三者へ貸す取引を意味します。

転リースを行うと、自社にリース料の収入が発生します。会計上では、リース料の受け取り額と支払い額を差し引かなくてはいけません。

差し引いた差額は、手数料収入として計上します。転リースによって会計処理の流れが変わりますので、事前に把握して正しく記載しましょう。

3.損益の繰り延べ処理の有無

リースバック取引では、売却時に損益が生じます。通常、損益は「長期前払費用」または「長期前受収益」といった繰り延べ処理が必要です。

ただし、以下全ての条件に当てはまる場合、繰り延べ処理が不要になるケースがあります。

・ファイナンス・リース取引である
・自社のリースバック取引とほとんど同じ条件で、第三者に転リースしている
・取引実態により、リースバック物件の売買損益が実現されたと認められる

上記すべてを満たすリースバック取引は、繰り延べ処理が必要ありません。

4.新会計基準について情報収集する

すでにお伝えした通り、日本会計基準はいずれ改正される可能性があります。

そもそも会計基準は国際的な標準規格がなく、各国で認められている基準を自由に選択できます。国内で多く採用されている規格が、ASBJの「日本会計基準」であるわけです。

現在、日本会計基準は、国際会計基準(IFRS)との相違を減らそうとする動きが見られます。

日本会計基準を採用している企業は、新基準への移行時は新たなルールを理解して適用する必要があります。新基準が適用されてから慌てて調べるのではなく、日頃からの情報収集が大切です。

会計処理の注意点を事前に確認して、最大限のリースバック活用を

リースバック取引(セール・アンド・リースバック取引)は、多くの企業が資金調達手段として利用しています。

まとまったお金を得られるだけでなく、「貸借対照表のスリム化」「財務指標の改善」「不動産リスクの回避」といった会計処理上のメリットもあります。

リースバック取引の会計処理は、「ファイナンス・リース取引」と「オペレーティング・リース取引」に区分されます。一見すると複雑に思えますが、ご紹介した通りそれほど複雑な処理はありません。

計上する際は、転リースや繰り延べ処理の有無に注意が必要です。事前に会計処理の注意点を理解しミスなく計上することで、リースバックを最大限活用しましょう。

長期で住める、柔軟な家賃設定、設備修繕対応
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記事の執筆・監修

2005年穴吹興産株式会社入社。区分投資事業部のバックオフィス系課長。
【資格】
・宅地建物取引主任者
・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
営業マンとして7年間リースバックを中心に中古マンション買取事業に従事。数多くのリースバック案件を経験。優秀営業マン賞を受賞。新築マンションの販売も10年以上経験。

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